パンクロックは男のもので、ロックフェスに女子が行けば痴漢やレイプの標的になるのが当たり前だった90年代初頭、男女差別が横行する音楽シーンに憤慨し「女子だってパンクしたいんだ!」と立ち上がった女子たちによって、ライオット・ガールと呼ばれるサブカル×フェミニズムムーブメントが勃興。それからBikini Killを始めとしたガールズパンクバンドが次々と輩出されたのだけど、「男は女の敵だ!」といったようなトガった主張が多かったためか音楽的評価はイマイチで、賛同者以外からは冷ややかに見られがちだったガールズバンドの現状に一石を投じたのがこのSleater-Kinney. といつか何かのZINEで読んだ記憶があります。ちなみにこのZINEっていういわゆる同人誌もライオット・ガールから広まったらしいです。すごいですね。
それからレジェンド的なバンドなんだなっていうことだけが頭の片隅にあったんだけど、何年か後にたまたま10年ぶりに再結成した彼女たちの新作アルバムをCDショップで見かけたんですよね。それがこの曲が収録された"No Cities To Love"であり、私が彼女たちの音楽を知ったきっかけでした。中年女性3人組バンドってどうなん??と思いつつも実際聞いてみたら古臭さとか若い頃を引きずってる感じなんて全然しないし、むしろ地に足ついた大人だからこそ書けるリアルさがめっちゃよかった。佇まいもまさに大人の女性って感じで憧れたなあ。
で、そのアルバムで一番インパクトがあったのがこの"Price Tag"です。毎日仕事に追われているのに給料は上がらず贅沢なんてもってのほか...っていう一般市民の差し迫った現実を描いた歌詞とその緊張感を盛り立てるかのようなクールでつんざくようなロックサウンドに当時はガッと心を掴まれました。そのとき自分と同じ世代のバンドって色恋のあれこれについての歌が多かったから、それとはまるで対照的なテーマだったのも新鮮で。ちょうど今の物価高なご時世に聞き返すとダメージがありますが(笑)やっぱりかっこいいです。なんで株価上がってるのに景気良くなってる感じしないんですかね~国会議員の裏金をうちらに還元してくれないだろうか。
The bells go off
ベルが鳴り響き
The buzzer coughs
ブザーが音を立て
The traffic starts to buzz
道路がざわめき出す
The clothes are stiff
服はごわつき
The fabrics itch
生地はチクチクして
The fit's a little rough
伸びてたるんでる
But I suck it in
To every stitch
Try to fit inside the glove
でもサイズを合わせるのに縫い直すのは気が引ける
I scrambled eggs
卵をかき混ぜる
For little legs
幼い子供の為に
The day's off in a rush
休日はあっという間に終わってしまう
It's 9 AM
朝9時
We must clock in
遅れるわけにはいかない
The system waits for us
システムが私たちを待っている
I stock the shelves, I work the rows
棚を詰め、列に並んで働くけど
The product's all Iight up
光が当てられるのは売り物の方
If I could flip the switch
スイッチを切り替えられたら
The system fix
システムは修正され
I could move us to the top
自分たちを一番にできるかもしれない
The numbers roll, it's time to go
数をこなして、さあ帰ろう
But never fast enough
でもいくら作業スピードを上げても余裕はない
We never really checked, we never checked the price tag
見たことない、値札なんて見たことないわ
When the cost comes in, it's gonna be high
代償を払うときが来れば、きっとそれは高くつく
We love our bargains, we love the prices so low
私たちはバーゲンが、格安価格が大好きだ
With the good jobs gone, it's gonna be rough
仕事を失えば、きっと生活は荒れていく
In the market
市場で
The kids are starving
子供たちはお腹を空かせ
They reach for the good stuff
高いものに手を伸ばす
Let's stay off label
商品のレーベルは気にしないようにしよう
Just 'til we're able
To save a little up
もう少しお金が貯まるまでは
The next big win
いつか大成功して
The ship comes in
大金が手に入れば
No more worry for us
何の心配もいらなくなる
Just keep moving
だから前に進み続けよう
The wheels keep turning
車輪を回し続けよう
It's time to go pay up
さあ借金を返さなきゃ
We never really checked, we never checked the price tag
見たことない、値札なんて見たことないわ
When the cost comes in, it's gonna be high
代償を払うときが来れば、きっとそれは高くつく
We love our bargains, we love the prices so low
私たちはバーゲンが、格安価格が大好きだ
With the good jobs gone, it's gonna be rough
仕事を失えば、きっと生活は荒れていく
I was lured by the devil, I was lured by the cost
悪魔に誘われ、金額に誘われ、
I was lured by the fear, that all we had was lost
恐怖に誘われ、すべてを失った
I was blind by the money, I was numb from the greed
金で盲目に、欲で麻痺した
I'll take God when I'm ready
心が決まれば、神を受け入れよう
I'll choose sin 'till I leave
この世を去るまでは罪を選ぼう
We never really checked, we never checked the price tag
見たことない、値札なんて見たことないわ
When the cost comes in, it's gonna be high
代償を払うときが来れば、きっとそれは高くつく
I was lured by the devil, I was lured by the cost (We love our bargains, we love the prices so low)
悪魔に誘われ、金額に誘われた(私たちはバーゲンが、格安価格が大好きだ)
With the good jobs gone, it's gonna be rough (I was lured by the fear, that all we had was lost)
仕事を失えば、きっと生活は荒れていく(恐怖に誘われ、すべてを失った)
メモ
stiff
「こわばった」
fit like a glove
「ぴったり合う」
"We never really checked, we never checked the price tag / When the cost comes in, it's gonna be high"
ウォルマートのことを仄めかしているよう。ウォルマートは安さを売りに世界一のスーパーマーケットになったけれども、低価格実現の一因にあるのは人件費のカット。2005年に公開されたドキュメンタリー映画『ウォルマート~世界最大のスーパー、その闇~』により、薄給故に働けど働けど貧困から抜け出せない従業員の存在を始めとしたウォルマートの裏事情が明るみになりました。このフレーズは、皆安い値段の商品に飛びつくけれど、その代償を払っているのは誰なのか考えたことはあるのだろうかという問題提起がなされているのかも。
ship comes in
「幸運が手に入る」「金持ちになる」
pay up
「借金を耳を揃えて返す」「有り金をはたく」